| ビヨンド・サイレンス |
| 「雪は周りの音を飲み込むの」 「しんと静まり返って、世界が静かになる。すばらしいね」 |
| 1996年 独 監督:C.リンク 出演:T.テステュー、T.トゥリープ |
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| クリスマス・シーズンの街は賑わい、窓の外に雪が舞い、道路や車の上には雪が積もっている。静謐――。 ミュンヘン近郊の小さな町に暮らす家族の物語。耳が不自由な両親に、幼い娘が雷や雪の音を説明する。両親は自分の感じる世界に「足りない」部分があることを認め、それを娘のララの説明で補っている。音のある世界との架け橋としてララを頼りにしていて、電話に出るのもララ、ラジオのチューニングにOKを出すのもララ、TVを見る時にはララが手話で通訳を務め、ララの担任の先生との懇談もララ本人が間に入り、銀行との交渉もララを介して行う。間に入らされるララは双方の意見の食い違いを調整しないといけなかったり何かと大変なのだが、幼いララはその辺をテキトーにやり過ごし、とりあえずは大した問題も起きない。立ち回りの上手なおしゃまな女の子だ。家族の中でも手話を使えないおばあさんたちにすれば、ララが両親と何の不都合もなく話す手話は「不思議なおまじない」そのものだった。不思議なおまじないを使って、ララと両親は違和感を感じることなく生活を送っていた、はずだった。が、大きくなるにつれ、ララにとっては静か過ぎる生活が物足りなくなっていく。 父親の実家で行われたクリスマス・パーティでは祖父と叔母のクラリッサがそれぞれピアノとクラリネットを演奏し、ララは音楽の美しさに魅かれてゆく。耳が不自由なゆえに過去に辛い思い出を持つパパはそれを快く思わないのだが、ララは構わず、成長とともにクラリネットの才能を開花させ、音楽の世界への旅立ちを決意する。昔からパパとぎくしゃくしていたクラリッサはララにクラリネットをプレゼントしたり、平衡感覚がないためにララの両親が乗れない自転車に乗せてあげたり、音楽学校への進学にまで口を出し始めたり、何かと構いすぎてしまう。おかげで広い世界を知ってしまったララも、だんだん両親に無理を求めるようになる。全ては音楽が原因だった。音楽なんか勉強の邪魔だと言うパパと、聞こえないパパには分かりっこないと反抗するララ。娘が手の届かないところに行ってしまうんじゃないかと込み上げる悲しみに苛立つ父と、もっと大きな世界を知りたいと張り切る娘との衝突。二人の間の溝は深まるばかりだ。互いに辛い気持ちを胸の内にしまったままの父と娘は、白い雪が舞う青い夜に印象的な時間を過ごす。音もなく静かに降る雪が全てを包み込んでしまった世界では、父の感じる世界も娘の生きる世界も同じだった。何も変わらない。だけどやはり音楽の道を選ぼうとする娘に父が「お前がおれたちと同じならよかった」と呟くシーンは、辛すぎる。父と娘が、互いに「違う」ということを意識せずにはいられないのだ。仲違いをしているわけでなく、それなのに分かり合えない関係は、しかも親子間なら余計に遣り切れない――。やがて音楽に集中できる環境を整えたララは、生き生きとしていて、恋に落ちたりもして、途中で挿入されるグロリア・ゲイナーの "I Will Survive" がシーンを盛り上げる。様々な別れや出会いの中でララは自分の内に在る音楽に気づき、親元から巣立ってゆく。 映画は、湖に張った氷の上でスケートを楽しむ母娘を、分厚い氷に閉ざされた湖の下からのアングルで撮った映像で始まる。氷の上の世界と、湖の中の世界――。隔てる分厚い氷越しに、どちらの世界もぼんやりとしている。エンディングでは氷に象徴される壁が取り払われたような会話が、父と娘の間で交わされる。音楽は聴こえなくても、感じることはできる。大切な人の愛する音楽ならなおさらだ。誰もがユニークな存在であり、それでいてなお、誰とも同じ世界を生きているんだと思えた。「ありがとう」という手話がとても美しく、印象的だった。 |
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